「お彼岸とご先祖様への想い」



 お彼岸が近づいてくると、ご先祖様も心地よい春風や秋風に心弾ませ、娘や息子、孫達は元気で頑張っているだろうか?健やかに生きている子孫の姿を想い浮かべながら、今年もお墓参りに来てくれるだろうか?と、どんなに楽しみにしておられる事でしょう。生きている私達が子供や孫を心配すると同様に、私達子孫の行く末を案じ、この世に受けた尊い生命を大事に生きているかを、あの世から遠く見守っておられるのです。

 お彼岸の中日ともなれば、お花や供物などを手に、家族連れで墓参りに出かける風景が各地で見られますが、どんな気持ちでお参りなされているのか、心の内は十人十色様々な想いが込められている事でしょう。もし、こんな気持ちでお参りなされたとしたら、ご先祖様はどんな想いをなさるでしょうか。ご先祖様の立場になって考えてみたいと思います。

 Aさんは墓前にて、「最近、家族中に病気が多く、事故にあったり、職場も不景気で借金も多くなり、子供は高校受験だというのに全く勉強もしない。それで家内中もめ事が絶えず困ったものだ。今日はお彼岸でお墓参りに来たので、何とか助けてください。もっと家の中が良くなるようにお願いします。ご先祖様・・・。」と願いつつ手を合わせました。
 ご先祖様は困ってしまいました。「ああ、今年も相変わらず頼み事か・・・。常日頃努力していればいいのに、自分を省みず、人にばかり頼っていて本当に困ったものだ。もう少し生まれ変わって、みんな仲良く力を合わせて、もっと前向きに生きられないものか。限られた尊い生命なのだから・・・。」 「これではあの世に来ても心配で、安らかどころかいつまた頼みに来られるか心配で、おちおち安眠もしていられないぞ。」  半ば嘆き悲しみの想いでおられる事でしょう。

 Bさんは墓前にて、「この間、息子が頑張って家を新築してくれた。嫁さんもよく働いて、ご先祖様や家族の事を大事にしてくれる。いつも自分の力よりもご先祖様の御加護のおかげと感謝しているようだし、孫も頑張って志望校に合格できました。これからも毎日を大切にして、みんなで力を合わせて、ご先祖様の分まで精一杯生きていきます。心配なされずにあの世でお眠り下さい。」と手を合わせながら、仏様への感謝と近況報告をしていました。
 Bさんのご先祖はきっと涙を流して、「良くやってくれた。あまり人にも頼らず願いもせずに。その上、私達先祖を大切に見守ってくれようとする想いは何とも有り難いものだ。これからも陰ながらいつも応援するからな。」と、そのご先祖様はどんなにか喜んでおられた事でしょう。

 人の生き方は様々でありますが、ご先祖様の喜びというのは、子孫の人々が如何にかけがえのない生命を大切にして穏やかな人生を送ろうとしているか、そんな姿を感じた時。そしてご先祖様への感謝と安心感、・生きる誓いなど、仏前で述べられるほど嬉しい事はないでしょう。このA・Bお二人の想いは対照的ですが、確かにこの世に生きるという事は、四苦八苦と呼ばれる悩みと不安と苦しみの連続に、如何にして前向きに乗り切っていくか、まさに苦しみとの闘いでもあります。

 そこで、お釈迦様はこの世の苦しみの世界(此の岸)から、満ち足りた安らぎの世界(彼の岸)に導かれるために、次のような教えを示されました。苦しみの世界でもある此岸と、安らぎの世界の彼岸との間には、人間の煩悩という川が流れています。向こう岸に至るために、次の六つの渡し舟があることを教えてくれました。人間生きていくなかで、この何か一つでも実践する事によって、生きながらにして彼岸へ渡れることを説かれています。

安らぎの世界(彼岸)への六つの実践(六波羅密)
   一、布 施(ふせ)      物でも心でも惜しみなく人々に施そうとする心。
   二、持 戒(じかい)      仏様が示された戒めを大切に守ろうとする心。
   三、忍 辱(にんにく)    どんな辛い事にも耐えようとする心。
   四、精 進(しょうじん)   あらゆる事に一生懸命努力しようとする心。
   五、禅 定(ぜんじょう)  心静かに落ち着いて物事を見つめる心。
   六、智 慧(ちえ)       生まれながらにして持っている仏性に目覚める心。

この六つを日々実践していく事が大切なのです。
 

 春夏秋冬が毎年移り変わると同様、悩み苦しみ・日々の人生全てが少しずつ移り変わりながら、私達は自然界の流れと共に、今此の世に生かされているのです。生死も栄枯盛衰も全て自然の流れのひとこまにすぎません。今日生かされている事への感謝と、精一杯生きる人生の悦びこそ、安らぎの涅槃の世界であり、到彼岸の心である事をお釈迦様は説かれております。

 どこのご先祖様もお彼岸にお参りに来てくれるのを待ちわびておられる事でしょう。毎日の生き方や健康で働いている様子、将来の夢など、仏様が安心されるお話や出来事など報告してくれる事を待っておられます。最近良いことがあれば、お陰様にて、と感謝の心を、失敗や良からぬ事が生じていたら、いつか良くなるように頑張りますからと、前向きに生きる誓いをそっと合掌の折に心していただければ、ご先祖様はどんなにか喜ばれることでしょう。
 そんなときはきっと願わずとも、「何とか護ってあげなければ・・・。」と、仏様の御加護が倍増されるものと信じます。