「糖尿病について」

米沢市立病院 内科  八幡芳和

糖尿病についてのお話をします。

毎年11月14日は、世界糖尿病Dayです。 世界糖尿病連合(IDF)が、糖尿病への注意を喚起するため、パリのエッフェル塔、東京タワーや札幌の時計台など、世界、日本の主だった建物を青い光でライトアップするイベントになります。 これは、医療経済や社会生活に与える影響が大きいため全世界で取り組まなければならない、一つの重要な疾患だからです。 「ブルーサークル」といって青い輪になったバッジを付けている医療者をご覧になった方もおられるでしょう。 2006年(平成18年)の統計では、全世界で6,700万人(2025年には9,940万人に)なかでもアジア地区の急増が指摘されています。 日本では、2007年(平成19年)の厚生労働省の糖尿病実態調査で、糖尿病患者890万人、予備軍を加えると2,210万人。 一つの疾患である、糖尿病の医療費は何と一兆円にものぼり、年々増大していることから大問題にまでなっています。

さて、その原因では、消化酵素やさまざまなホルモンを分泌する臓器の、膵臓に病変の主体があります。 生体のなかで、唯一血糖を下げるホルモンであるインスリンが不足するために、血糖が上昇するので 糖尿病というよりは、糖血病と呼んだほうがよいのです。 インスリン不足は、膵臓のホルモン分泌細胞であるB細胞(β細胞ともいいます)の機能不全によります。 これには遺伝的要素が大きく、両親や兄弟に糖尿病がいる方は大いに注意すべきです。 日本人を始めとする、いわゆる蒙古民族には欧米人に比べその因子が多いのです。 今後、生活環境が欧米化しつつあるアジア人に急増するのもうなずけます。 もう一つは、食生活です。 膵臓B細胞に障害を与えるのが、過食、なかでも甘いものよりは、動物性の脂肪の取りすぎがはっきりしています。 即ちファストフードの中にある、肉食や、油調理されたお菓子とされ、日本に「セブンイレブン、ケンタッキーフライドチキンなど」が上陸した1974年(昭和49年)から、お店の数の急増にあわせて、糖尿病患者も一緒に増えている現象が認められるのです。

糖尿病を持つことで、最も困ることは「血管の病気」と名指しされるからです。 0.1mmもの細い血管障害です。 三大合併症を示します。 @網膜症:成人の中途失明者は日本で年間4,000人。 ある時まで、全く無症状だった方が急に光を失うのですから、これは大変です。 神経症状を伴うことから、点字の習得にも困難があります。 A腎臓病:尿を作る腎臓の細い血管が障害されるための腎不全から、年間12,000人の方が毎年人工透析に入ります。 一人年間の医療費は600万円ものお金がかかりますから、医療経済厳しい最近の話題からみても恐ろしい気がします。 B神経障害:釘を踏み抜いても、痛みを感じないため、傷ができたのを知らないまま悪化し、手足の切断につながります。 また、心臓の拍動リズムの調節障害から、突然死も指摘されます。 C大血管障害では、脳梗塞や心筋梗塞の発生が多いのも有名です。

診断では、人間ドックで有名な「75gブドウ糖負荷試験」はよくご存知ですね。 あれはブドウ糖75gに相当する、でん粉が入ったジュースで、炭酸水のサイダーと同じ味でとてもおいしいです。 しかし、30分おきに採血2時間と時間かかかり採血手技やコストも大変です。 アメリカでは行われていません。 そこで、最近約1ヶ月の糖代謝を反映するHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー、グリコヘモグロビン)が代用され始めました。 日本糖尿病学会では糖尿病診断基準の中に定められています。 でも、簡単には食後2時間くらいの尿を調べ、(+)以上なら糖尿病の可能性は高いことになり、是非医療機関を受診して下さい。 なぜならば、私たちは血糖が上がるとそれを直ちに下げるように膵臓のB細胞から、インスリンが分泌され尿には、絶対に糖がでないような仕組みが出来ているからです。 胃カメラや、胃のバリウム検査、腹部超音波検査で空腹のまま尿を検査すると軽い糖尿病は見逃されます。 最も安くて、簡単な食後の尿検査をお勧めします。

治療では、先ほどから述べていますように、不足しているインスリンを補充するのが原則ですが、一般医科の間ではインスリン注射は「最後の最後の治療だ。 一度始めたら、死ぬまで注射することになるから、絶対にしないように。 」との話が出ていますが、事は全くの逆で早く軽症のうちに、インスリン注射を開始すると、自分の膵臓機能が復活して早く止められるのです。 こうした実例を数多く経験しています。 糖尿病の治療は「インスリンに始まり、インスリンに終わる」道理です。 注射は面倒ですが、その有効性は高く、最近は注射針先にも日本のまさしく「先端技術」の発展により痛くありません。 東京は下町の町工場のオヤジさんが、技術を大発見したことで有名です。 飲み薬よりも副作用が無く、また種類も多く開発され症例に応じ、使いやすくなってきました。 皆さん低血糖を怖がりますが、逆に飲み薬での低血糖が長時間持続して余計怖いことが案外知られていません。 万年筆のように、小さくて持ち運びができるペン型タイプが便利です。 注射の際に皮膚をアルコールで消毒しますが、生理的な皮膚のバリアーを壊すことになるからと直接皮膚に、しかもズボンやシャツの上から注射するのがよいとまでいわれてきました。 飲み薬では、@SU薬(スルフォニル尿素剤)。 サルファ剤と昔呼ばれていたように、ばい菌を殺す抗菌剤の開発中に、副作用としての低血糖発作がおこることから、糖尿病薬として偶然発見されました。 直接膵臓B細胞に働き、インスリンを分泌させます。 Aα-GI(アルファグルコシダーゼ阻害薬)。 腸管に入ってきた、糖の吸収を抑え、遅くする酵素阻害薬です。 わざと消化不良をおこしますから、その分オナラや、軟便(これが何遍も出るそうです)が副作用になり、女性には不向きです。 日本人はオナラには、比較的寛容ですが欧米人にとっては耐えられなく恥ずかしいそうです。 Cチアゾリジン誘導体:インスリン抵抗性改善薬で、インスリンの効き目が増強されますし、飲み薬の補助作用も期待できます。 Dインクレチン製剤:最も最近注目されているのが、このホルモンで小腸粘膜にある分泌細胞から出るホルモンが直接膵臓B細胞に働き、インスリン分泌をおこさせるものです。 血糖が高くなければ働かないので低血糖の心配がいらないなど、有効性が評価されつつありますが、世の中にでてから4年も経過していないため本当の実効性はまだ未知数といわれています。

以上概略をお話しましたが、何でも早めの対処が大切であり遠慮なく 医療機関にご相談下さい。