4.中学校第3学年選択教科理科での展開例

(1)展開にあたって
  @ 選択教科について
 川西二中では第3学年で5教科(理科、社会、技術、音楽、体育)の選択教科を開設している。3学年の生徒は83名で、平均すると16〜17名の生徒が1教科に割当たる。平成10年度は、それより若干少ない男子6名女子6名の計12名の生徒が理科を選択した。4名ずつの3班に分けて、理科担当教諭2名で指導にあたった。
 選択理科は生徒がわずかの選択肢とはいえ自らの意志で履修する為、ある程度の興味と意欲が期待できる事,比較的少人数の生徒に、しかもティームで指導できる事,内容については安全面や生徒の実態への配慮以外は、比較的自由がきく事などが特徴である。

  A 生徒について
 タヌキ・キツネを使った探求活動には4名の生徒が取り組んだ。この4人の生徒はまず「生物の分野がしたい」という女子生徒2人に私の研究テーマを紹介し,自分の家の周りにキツネが住んでいるといって話題に入ってきた男子生徒2名がそれに同調したものである。いずれも学力は高く意欲的で、理科への興味を強く持つ生徒たちである。
 はじめ生徒たちは野外で生きた動物を毎回観察できると考えていた。逆に直接観察以外に何をしていいか見当もつかない、やりたいことも思いつかないという実態であった。虚空蔵山に家がある男子生徒以外はキツネを見たことが無かったが、タヌキは3人が見た経験を持っていた。しかしいずれも1回だけであった。
 
  B 指導について
 選択教科の特性と生徒の実態から、生徒自らの関心を掘り起こしてテーマを設定し,教師が助言や物的な援助を通して個別的に深く関わりながら,1年間を通してそれをじっくりと探求させることを、選択理科の本年度の方針とした。これを受けて4人の生徒には「狐狸学に挑戦!」のテーマでタヌキ・キツネの生活について探求する活動に取り組ませることにした。
 生徒の興味が活動を通して発展していくことを認め、生徒が活動を自ら創り出し,見直し,意味を構築していく。その中でスキルを身に付け探求の楽しさを味わえるような時間にしたいと考えた。そこで1年間の活動計画を予め生徒に示さず、生活痕跡の観察をスタートとして、その活動を通して生じた新たな疑問や課題をもとに、次の活動を助言しながら、活動が連続していくような展開とした。 

(2)実践の記録
 活動の記録を表にして示す。
 4月第3週の土曜日に始まった選択授業は11月3日の文化祭での展示発表で終了ということになった。足跡を中心とした生活痕跡の観察、ラジオトラッキング、タヌキハイク(伐開地周辺の山歩き)を行うことができた。第2時の生活痕跡の観察は50分の授業時間内では十分でなかったので、第2時と第3時の間に1回放課後の時間を使って観察を行っている。また第9時、第10時の活動は選択授業のあった土曜日の午後の時間も使った。夏休みに直接観察を計画していたが、日程がとれず実施できなかった。ロボットカメラによる活動は11月に実施のこころづもりだったため、カリキュラム変更により、実施できなかった。
 フィールドに出られない日の時間つなぎの意味で「骨格標本づくり」を用意していたが、最初の生活痕跡の観察でタヌキの下顎骨を採集できたことから、意欲が高まり生徒は熱中した。

(3)実践を終えて
 実践後に生徒に感想文を書かせた。これには「骨のつくりの複雑さや体の動きに合わせてうまく作られている」「キツネとタヌキの行動範囲、どんなところにいるか分かった」「こんな近くにもキツネやタヌキっているんだなあと感心」などの言葉が見られる。生徒の自然認識になにがしかのものを加えることができたと考えている。ただし植生による利用頻度の違いなどに気づかせるには至らなかった。これは計画上の問題である。夏休みを使った観察や、11月、12月の落葉後や積雪期の活動が行えれば、さらに実践は深まったものと思う。
 「土地開発が進んだら(略)動物が姿を消してしまう」「人間(だけ)のための地球になってしまわないように」といった言葉も見られ、本実践が環境について考える機会となりうる事が示唆されたと考える。
 さらに、感想文には、文化祭で「本物の骨」を気味悪がっている他の生徒たちを不思議に感じ、何の抵抗もなく骨格の観察ができる自分への驚きが、多く述べられている。また11月に開かれたニホンザルフォーラムにも自主的に熱心に参加した。頭骨を見分ける方法を独自に考え出したこともあって、フィールドに「足跡が残っていたり頭骨が落ちていたらその動物の種類が分かる」と他の生徒に自慢げに話す姿が見られた。これらのことからこの実践によって、成就感や自己能動感といった生きる力につながっていく力が育ちつつあると考える。