1.はじめに

 生徒が直に自然と触れ合い、そこに生活する動植物の姿から自然の複雑さや巧みさを感じ取ることは、本来理科教育の根幹をなす活動である。しかしながら学校教育の時間的制約や地理的な条件、教育課程の枠組などによって、必ずしも十分に自然との触れ合いを経験させられないのが現状である。
 しかし平成14年施行の新学習指導要領では、教育課程の基本的枠組みが大きくかわり、選択教科の充実に加えて「総合的な学習の時間」が新設されるなど、内容的にも時間的にも自由度の高い教育実践の可能性が出てきた。特に「総合的な学習の時間」ではいくつかの先行実践において、地域の特徴的な自然や社会を題材にしたり、環境教育に取り組む例が大変多い。地域の自然から題材を得て人や社会との関わりを学ぶ学習は、今後ますます重要になると考えられる。地域の自然に教材性を見いだして学習活動を具体化することは、各地域、各学校におけるさしせまった課題であるとも言える。
 一方、公民館活動などの社会教育においては、地域の自然を生かし、観察と採集を中心とした活動が企画されることがある。これらの活動に参加することで地域の自然と触れ合うことも可能である。しかしながら観察の対象は、植物や昆虫類、鳥類などが中心であることが多く、哺乳類を素材とした活動はほとんど行われない。 タヌキやキツネ、カモシカなどの哺乳類は、言うまでもなくヒトに最も近い生物であり、他の生物を教材にした場合に比べて、より直接的な理解と、心情に強く訴えかける効果が期待されよう。それにも関わらず教育の場面であまり利用されないのは、哺乳類の機敏さや警戒心の強さ、多くが夜行性であることなどから、直接観察が困難なことが理由としてまず挙げられる。
 しかしその地域に生息する哺乳類についての情報が極めて少ないことや、植物・昆虫における採集会や、鳥類におけるバードウオッチングのようには、観察方法が一般化していないこともあって、どこで(場)何を対象に(素材・種)どんなことをするか(活動)といった、教材として当然整理されるべきことが、十分に検討されてきていないことが、その根元にあると考える。
 そこで本研究はそれらを整理して、哺乳類を素材とした探求活動を展開する方策を探るとともに、地域の哺乳類を教材化する手順を明らかにすることを目的として、以下の内容について調査と検討を行う。まず置賜盆地成島丘陵における哺乳類の生息状況の実態をアンケート等から把握し、生徒の意識や経験の実態を参考に、教材として取り上げるのに適当な種について検討するとともに、探求活動の「場」として適当な地域を設定する。さらにその地域において、適当な種について詳しく生態調査を行い、より具体的に教材性を見いだし整理して、教材化と実践の方向を探っていく。さらに東置賜郡川西町立第二中学校の第三学年における、平成10年度の選択教科理科の実践例を通して、哺乳類を用いた探求活動の展開についてその方策を探る。ここで教材性というのは@素材に学習する価値があること、A素材が学習者にとって親しみがあり、扱いやすいこと、B素材が学習者の興味を促したり、新奇性を持っていること、C素材と活動が管理しやすいことなどである。