県理科センターだより原稿


「タヌキという素材」紹介します


1. はじめに
 私たちはまぎれもなくけもの(哺乳類)の仲間です。日本にはヒト以外のけものも沢山います。特にタヌキは日本の自然環境に合わせて、人間社会とも折り合いをつけながら懸命に生活しています。
 調査は様々な手法で総合的に行いますが、今回はテレメトリ−という調査からエピソードを紹介します。この調査はタヌキに電波発信機をつけて位置を調べるものです。得られた位置点を全て含む多角形を描いて、行動圏(ホームレンジ)を表しました。仕事の帰りに行うのでプロの研究者のようにはデータが揃いませんが、それでもタヌキの生活の一端がぼんやりと浮んできました。

2. 年に1度のごちそう
 図は3頭のタヌキの行動圏を重ねたものです。◯のついている部分が見事に共同利用されています。ここを利用するのは僅かに1週間ほどで、それも9月下旬だけです。実はここは墓地で、秋彼岸のお供えをねらってやってくるらしいのです。朝に見ると足跡が無数についています。ここのタヌキは人の出す残飯などには手を出さず、日頃は林の中で餌を探すのですが、年に一度(春とお盆も?)のごちそうは別のようです。

3. 母との別れ
 メスの成獣R2と若いオスR4は同時に同じ場所で捕まりました。その後2か月の間ほぼ一緒に行動していましたので、これは親子かもしれない、R4の分散行動(俗に言う親離れ)が見られるかも知れないと期待していました。事件は11月の初めに起こりました。親と思われるR2の動きが止まったのです。残念ながら死亡したと考えるのが自然です。R4はこの時から猛烈に行動圏を広げます。いる場所が毎日大きく変わります。母の後ろだてを失い、新しい生活の場を探しているのかと考えていましたが、雪が降り積雪が著しくなると、秋とほぼ同じ所にもどってきました。

4. 新たな生活の場を求めて
 分散行動を見せてくれたのは、若くて元気なR3というオスのタヌキでした。彼は12月に入ると何日かおきに電波が入らなくなり、ついに行方不明になりました。休日にあちこち探すうち、道路と田んぼをはさんだ別の丘陵にいるのを見つけました。元の住処へも未練があって結局1月までは行ったり来たりの生活を繰り返しましたが、根雪が深くなった2月、ついにR3の行動圏は秋のそれと重複しなくなりました。オスが親の行動圏を離れるこの行動は、近親婚を避けるなどの効果が期待されます。

5. おわりに
 タヌキはヒト同様に個性を持っています。ここで紹介した行動もタヌキ一般に言えるものとは限りません。それが教材化の手強い障害となるのですが、タヌキという素材の大きな魅力でもあります。