選択授業「理科」での実践例を紹介します。

(文章は教育課程研究集会でのレポートの一部です。)

 本校(川西二中)の第3学年では理科を含め5つの選択教科を開設している。3学年の生徒は83名だから平均すると16〜7名の生徒が1教科に割当たる。本年度はそれより若干少ない男子6名女子6名の計12名の生徒が理科を選択し,理科担当教諭2名で指導にあたることになった。
 選択理科は,生徒がわずかの選択肢とはいえ自らの意志で履修する為ある程度の興味と意欲が期待できる事,比較的少人数の生徒にしかもティームで指導できる事,内容に外的な規制がなく安全面や生徒の実態への配慮以外は比較的自由がきく事などが特徴である。そこで生徒自らの関心を掘り起こしつついくつかのテーマを設定し,教師が助言や物的な援助を通して個別的に深く関わりながら,1年間を通してそれをじっくりと探求させることにした。
 普段の理科の授業との違いは,生徒の興味が活動を通して発展していくことを認めて,それに教師がつき合ってやれることである。生徒は活動を自ら創り出し,見直し,意味を構築していく。その中でスキルを身に付け探求の楽しさを味わえる生徒に育つ。そんな時間になればと考えた。
 本レポートでは「狐狸学に挑戦」のテーマに取り組む,4名の生徒の様子を紹介する。とにかく生物の分野がしたいという女子生徒2人に私の研究テーマを紹介し,自分の家の周りにキツネが住んでいるといって話題に入ってきた男子生徒2名がそれに同調したものである。指導する私の側にはやらせたいことがたくさんあるのだが,生徒たちは動物生態学の地味さを知るよしもなく,野外で生きた姿を毎回観察できるといった幻想をもって始まった。

 最初のフィールド観察で下顎骨(タヌキ成獣)を拾えたことと,昨年に同個体かもしれない頭蓋骨を回収していることから,骨格への興味を引き出せたことは幸いであった。さらに昨年12月に回収したキツネの死体がちょうど骨格だけになったことも合わせ,1学期は骨の勉強に終始した感がある。逆に足跡や掘り返しの跡などのフィールドマークを大事に扱えなかったことが悔やまれる。このように生徒の興味の発展にそうという方針は,一面行き当たりばったりになるといった感も否めない。
 生徒たちには生きた動物を直接に観察したいという思いが当然ある。ラジオテレメトリーの体験で興味が高まっていることもあり,条件が整えば夏休み中にも観察会を計画したい。また生息環境としての植生や人の生活との関わりについてもぜひ取り組ませたいと考えている。いずれにしても,指導と平行して調査研究を進め,常に最新の情報をフィールドから得続けなければ実践はむずかしい。



骨格標本つくりの様子

まずは、骨をきれいに洗う。

イヌの骨格図を参考にしながら部分を確認していく。

頭骨を比べてみるとイヌ、タヌキ、キツネの特徴がはっきりする。

シートンのスケッチと実物が形、大きさともみごとに一致する。

完成?した「キツネの開き」(表示は一夜干しですが)


  生徒の感想から
この7ヶ月の間にタヌキやキツネを通して、今まで知らなかったことがたくさん分かってよかったです。
 骨の組み立てやフィールドでの活動をやってみて、骨の組み立てが一番難しかったです。一時間の中で全然組み立てられない時もあれば、すごく進んだ時もあって、本当に地味な作業でした。でも、みんなと協力して、なんとか形になってきたときは嬉しかったです。背骨や首の骨はなかなか合わなくて、本当に苦労しました。文化祭で、博物館みたいにきれいには作れなかったけれど、形にできてよかったです。
 フィールドでは、私達も何度か行ってみて、「こんな近くにもキツネやタヌキっているんだなあ。」といつも感心していました。この辺はまだ自然が残っていて、動物も人間と仲良く暮らしていると思うけれど、土地開発が進んだら、タヌキやキツネだけでなく、他のいろんな動物が姿を消してしまうと思います。そうならないために私達がこれから考えていかなければならないこと、人間のためだけの地球になってしまわないように、真剣に考えていきたいと思います。
 僕は、今年の選択教科に理科を選んでよかったです。その中でも「タヌキとキツネ」を選んでよかったと思います。タヌキキツネの行動範囲の調査では、いろいろな器具を使った練習や、実際に山へ行ってキツネとタヌキの位置を探したのが、とても強く印象に残っています。
 もう一つのキツネの骨格標本は、始めから終わりまで、一生のうちで初めての経験でした。それゆえにとても面白く、僕なんか本当にのめりこんでしまいました。はじめは手袋をかけていても抵抗があったのに
日数がたった今では、班の全員が何もつけずに触れるようになりました。(よいことなのか、悪いことなのか・・・?)
 この教科を選びこの研究を選んで、僕には何もかも始めてでとても新鮮に感じました。そしてとても面白かった。楽しかったです。

 はじめて本物の骨を見たときは「いやだなあ」と悪い印象をもちました。けれど7ヶ月ほどの選択理科の活動をしているうち、そのような気持ちはなくなり、骨のつくりの複雑さやからだの動きに合わせてうまく作られていることが次第に分かってきました。組み立てるのは難しかったのですが、なんとか形ができて、文化祭の日に机の上にきれいにならべられた骨格を見たときには、とても嬉しい気持ちでした。
 この他にもタヌキやキツネの行動範囲をさまざまな場所から調査したり、山の中に行き動物たちの穴や足跡を見たりと、いろいろなことを行いました。その度に今まで知らなかった新発見をしたり、勉強になりました。
 1つのテーマについてみんなと協力しあい、考えたり実験したり調査したりするのは良いことだなあと私は思っています。時々失敗したりしていきづまってしまったこともあったのですが、それも含め、班の人たちと一緒に過ごした時間の中で、私が得たものをこれからも生かしていきたいと思います。
 日頃あまりできないことをこの選択教科でやり、いろいろというか、少しだけ身についてきたことがある。
 例えば自分はタヌキ班だったので、骨を触ったり、洗ったり、いろいろなことをした。でも最初のころははっきり言って気持ち悪くて、手袋をしないと触れなかった。だけどだんだん慣れてきて、今では全然気にならなくなった。これはすごいと自分では感じている。普通の生活では骨を触ることはないので、いい経験かどうかわからないけど、まあ良かった。
 後はタヌキの生態、キツネとタヌキの行動範囲、どんなところにいるかなども分かった。それに発信機を使った実験は結構楽しかった。
 文化祭では、あまり人は来ないだろうと思ったけれど、予想とは違って人がたくさん来たことには驚いた。ただ骨を見ると、みんな気持ち悪がっているので、これが普通なのかと思えて、自分が変に感じた。